美味しいもののおはなし

虎屋、ひとりの贅沢。

すっきりと片付いたお部屋。
テーブルの上には、
美しい器と小さな野草。
丁寧に淹れられた水出しの緑茶。
読みかけの文庫。
小さく切り分けられた、
ひとかけの羊羹。

わぁ……大人ぁ……すてきぃ……

きのこです。

きのこのおじいちゃんは、
羊羹が好きで、
どっしりとした羊羹を、
しゅっと薄めに切って、
熱めのお茶でぱっと食べてるのを見て、
そんなにすぐ食べ終わっちゃうのに、
なんでもっとたくさん出しておかないんだろう、
って、幼いきのこは思ったけど、
あれが、大人の楽しみ方だったんだなぁ。

何日もかけて、
少しずつ食べていくのはかっこよかったけど、
今は便利ですてきなものがあるんだよ、
おじいちゃん。

虎屋の羊羹が、好きなときに食べられる。
なんてすてきなんでしょう。

あまりのすてき具合に、
内祝いとかお歳暮とかに、贈りまくったよね。
その反響がよかったことよかったこと。

年配のかたから、おともだちまで、
幅広くみんなが、すごい褒めてくれた。

「いろんな味が少しずつ楽しめるなんていいね」
「わたししか羊羹食べないから、少量で助かる」
「小さくてもちゃんと虎屋の羊羹だわ」

女性からの圧倒的な支持。

もちろん、贈るだけじゃなくて、
きのこは自分でも買う。

ここぞというときのために、
常にストックしてある。

ここぞっていうのはどういう時かっていうと、
食材と一緒に自分まで刻んでしまって、
もうなにもしたくないもういやだ、
ぜんぶやだ、みたいなときとか、
長い時間携わっていた大きなお仕事が終わって、
関係者のみなさんと打ち上げに行った日、
夜中に帰ってきて、
お風呂も入った、もう寝るだけだけど、
気分が落ち着かなくて眠れない、
みたいなときとか。

要するに、
とてもいやな気分のとき、
とてもいい気分のときだね。

あと、羊羹食べたいとき。

ひとつひとつは小さいけど、
ちょっとまとめて買おうとすると、
そこは虎屋の羊羹、
大きさのわりにめちゃめちゃ重いから、
通販で買って、届けてもらうのがいいと思う。

賞味期限は、製造から1年間。
おいしいうちにちゃんと食べてね。